Belle II

標準模型を超えた物理の探索

我々の宇宙を構成する物質やその結びつき(相互作用)は,現在の物理学では標準模型と呼ばれる枠組みで理解されます。
この枠組に含まれるクォークと呼ばれる素粒子では,粒子と反粒子の間の対称性(CP対称性)が破れている(粒子と反粒子にはたらく物理が異なる)ことが実験的に確認されています。その理論的な説明をした「小林・益川理論」の証明に大きな貢献を果たしたのが日本のつくば市にある高エネルギー加速器研究機構(以下KEK)で1999年から2010年に行われたBelle実験です(この結果により小林・益川理論の提唱者である小林誠・益川敏英両氏に2008年ノーベル物理学賞が授与されたことは記憶に新しい)。
その後もBelle実験は素粒子物理学において多くの貢献を果たしましたが,より効率よく,かつ高精度な測定を行なうための後継実験Belle IIへアップグレードするための改良が進められています。
Belle II実験ではBelle実験が検証したCP対称性の破れについて,より高精度に再検証を行なうことで標準模型からのわずかなズレを観測しようとしています。このズレは標準模型では説明できない非常に高いエネルギー状態(この宇宙が誕生して間もない頃に等しい)でのみ実現する,まだ知られていない新しい物理の兆候だと考えられています。標準模型は現在の素粒子物理に関する実験事実を非常によく説明しますが,一方で説明しきれない現象も確認されています。発見が期待される新しい物理は,これらについて何らかの答えを与えてくれる鍵となります。Belle IIは新しい物理を探索するための重要なプローブ(探針)なのです。

実験装置紹介

Belle II 実験は 7GeV (70億電子ボルト,電子ボルトはエネルギーの単位で電子一つを1Vで加速した時に得られるエネルギーに相当) に加速した電子と4GeV (40億電子ボルト) に加速した陽電子を正面衝突させ,その衝突反応から大量のB中間子対を生成する大型加速器実験の一つです。
B中間子はすぐにさまざまな粒子へと崩壊していきますが,その中でもごく稀な反応を精密に調べる(どのくらいの頻度で起こるのか)ことで新しい物理の兆候を見つけ出そうとしています。
Belle II実験では電子・陽電子を加速し衝突させるためのSuperKEKB加速器と,B中間子の崩壊を高精度で観測するためのBelle II測定器が使用されます。

SuperKEKB加速器

直径約1km,全周約3km の地下トンネルに電子と陽電子を周回させる2つのメインリングからなる円形型加速器です。
電子と陽電子は前段の直線加速器(ライナック)で目標エネルギーまで加速されメインリングに入射された後,KEK北東部の筑波実験棟の一点で正面衝突するように設計されています。
電子・陽電子ビームは電流のように連続した流れでなく,正確には多数の(陽)電子が寄せ集められた“かたまり” (バンチという) として周回します。さらにバンチはリング中に2,500個投入されます。ほぼ光の速さで回るバンチが互いにぶつからないように,かつBelle II測定器の置かれる筑波実験棟で正確に正面衝突するよう電子・陽電子ビームは精密に制御されます。

Belle II 測定器

電子・陽電子を正面衝突させてできるB中間子対(B中間子・反B中間子)はすぐにもっと軽い粒子へと崩壊していきます。
その崩壊パターンは非常に多く,かつ崩壊する方向も様々です(ただしBelle II実験では電子と陽電子のエネルギーが等しくないため,衝突後の粒子群はエネルギーの高い電子の進行方向へ打ち出される。これを非対称エネルギー衝突と呼ぶ)。あらゆる方向へ崩壊しても取り逃すことがないよう,ほぼ全方位を覆うようにBelle II測定器は設計されています。また,B中間子が崩壊する場所の観測や,崩壊後の粒子が通った軌道と運動量の測定など,役割によって最適な動作原理の装置を組み合わせた複合測定器となっています。

Aerogel RICH 検出器

その中でもエンドキャップ部と呼ばれる場所に置かれる粒子識別装置Aerogel RICH(Ring Imaging Cherenkov)検出器の開発に当研究室は参加しています。B中間子が崩壊してできる粒子群は非対称エネルギー衝突によってエンドキャップ部のほうへ多く飛来すると予測されます。その中でも荷電π中間子荷電K中間子の識別を担うAerogel RICH検出器は,B中間子崩壊を正確に観測するために重要な役割を果たすと期待されています。

検出原理

Belle実験では同じ役割の粒子識別装置としてACC(Aerogel Cherenkov Counter)と呼ばれるものを使用していました。ただしエンドキャップ部では設計上高い運動量での粒子識別はできていませんでした。Belle II実験ではエンドキャップでも高い運動量の粒子を識別するために,世界でも全く新しい方式の装置を開発しました。それがAerogel RICH検出器(以下A-RICH)なのです。
原理は簡単です。荷電π/K中間子がエアロゲルと呼ばれる特殊な透明物質を通過するときにチェレンコフ光という微弱な光を放出します。この光は荷電粒子の進行方向に向かって円錐状に放出されます。下流に置いた光検出器でこの光をリングイメージとして観測し,その半径を正確に測定します。チェレンコフ光の放出角(言い換えると円錐の大きさ)は同じ運動量だと粒子によって異なることが理論的に計算できるので,測定した半径を放射角に焼き直すことで粒子識別が可能となります。

開発状況

A-RICHは当研究室だけでなく,Belle II実験が行われるKEKや東邦大学,新潟大学,名古屋大学,そして海外ではリュブリアナ大学(スロベニア)という国内外の研究機関と共同で開発を進めています。
A-RICHは大別して次の3つの要素によって構成されます。チェレンコフ光を発生させる物質であるエアロゲル,その光を検出するための光検出器,そして専用の読み出し電子回路です。私たちはA-RICHが高い粒子識別能力を発揮するために,これらの構成要素を新しく開発してきました。とくに本研究室は光検出器と読み出し電子回路の開発に大きく貢献しています。

光検出器はA-RICHの要求性能から,光を粒子の状態である光子として1つ1つ数えられる感度とそれを5 mm程度の位置精度で検出できるようにマルチアノード型HAPD(Hybrid Avalanche Photo-Detector)という装置を新開発しました。このHAPDの基本性能試験や放射線による損傷対策とその評価試験,そして実際にBelle IIで使うための量産品の品質試験を主体的に進めています。また,HAPDには最大で-8,000Vという高い電圧を使用するため,安全・安定・効率よく制御するための電源システムの開発も並行して行なっています。HAPD読出し電子回路もIC設計から携わっており,現在はその最終版の量産に向けて準備を進めています。

その他

A-RICH以外にも当研究室ではBelle II全体のデータ収集システムやトリガーシステムなどBelle II実験に関する多くの開発にも携わっています。

Belle・BaBar両実験の実験成果を共同出版

Belle実験と同じBファクトリー実験であるBaBar実験 (SLAC,米) が共同でこれまでの実験成果を出版することになりました。
現在はプレプリント版が以下のリンクより閲覧可能です。

詳細はKEKのプレスリリースをご覧ください。

実験紹介(動画)

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